死にたい人

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「不死になりたい、そう私が願ったから、あの魔女は私から『死』を奪った。そして私は不死身になった」
僕が信号待ちしていた交差点、そのど真ん中で起きた交通事故。
ひかれた歩行者の生首が目の前に転がってきたと思ったら「すまないが、胴体のところへ連れていってくれないか」と頼んできて、今はもうすっかり五体満足の体で、警官達に事情を説明している。
「永遠の生こそ究極の自由だと思った。だが違った。私の『死』を持つ魔女に私は怯え、支配されている。辛くとも、死ぬことすら最早出来ずにいる」
「とりあえず、詳しいことは署で聞きますから」
そうして彼はパトカーで連れていかれた。生首の時よりも死んだ顔をして。
見送った後、僕は改めて信号が変わるのを待つ。
肩提げ鞄には、昨晩書いた遺書と、大量の睡眠薬。

僕の死は、僕の腕の中にある。

そのことに僕は安堵し、鞄の肩紐をぎゅっと握って、青に変わった信号へと歩きだした。
その他
公開:18/06/05 22:46
ねがいごと 七夕コンテスト2018

詩のぶ

小説、詩、短歌、俳句、コピーなど、読んだり書いたりするのが好きです。ショートショートはこれまであまり馴染みがなかったので、ここで色々試しながら勉強できたらと思っています。
何か作るとtwitterで呟いてますのでよろしかったらそちらでも。

Twitter @shinobu_yomogi

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