活字中毒

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スーツで白髪の初老の男が胸をかきむしっている。注射器を持ち、カバンをまさぐりながら慌てる。
「早くせねば!」
そう言った男の顔は青ざめている。もがき苦しむ。倒れこむ。床に転げる。
妹のためにと図書館に来ていた僕は慌てて、近づいていく。
「大丈夫ですか?」
男は息も絶え絶えにいう。
「あんた、なんでもいい。本を持っていないか?」
この状況にふさわしくない問いかけに戸惑っているうちに、男は、僕のジャケットのポケットに入っていた文庫本を乱暴に剥ぎ取る。
それから、注射器を本にあて、器に満ちた液体を自身の腕に注射する。
どういうことなのかと唖然とする僕を尻目に、紳士は立ち上がり、服のホコリを丁寧に払う。1つ咳払いをして僕にいう。
「悪いことをしてしまったわね、でも、あなたには、とても感謝しているわ」
果たして関係あるのか、男が僕からむしりとった本は、妹のためにと借りたティーン向け小説だった。
ファンタジー
公開:18/06/06 22:14

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