ねがい‐ごと【願い事】

0
109

「願い事はなぁに?」
幼い声に聞かれて、いつもより返答が遅れた。
今まで誰かに聞かれたことも答えたこともなかったからだ。
言われたことをこなすのが毎日の全てで、そこに過不足は何ひとつない。
「ねがいごと、は」
文字としてなぞる言葉を呟いてみても後が続かない。

どんな『ねがいごと』が欲しいのだろう?
なんのために『ねがいごと』が必要なのだろう?
繰り返し質問の意図を探しても出ない答え。

なかなか返ってこない言葉に待ちくたびれた様子で、小さなご主人様は言った。
「僕ね、誰かの願い事を叶えてみたいんだぁ」
少しだけ大人びた顔が遠い昔の面影と重なって認識される。
たくさんの小さな願い事は叶えられるのに、私はいつも『一番大切な願い事』を叶えることができない。
どうやら、そうできている。

年月を経た回路が少しだけ軋んだ音を立てた。
最新の回路に取り換えたら、『ねがいごと』もわかるのだろうか。
その他
公開:18/06/05 12:37

天宵 遥

言葉遊びや少し不思議なお話が好きです。
SSGプチコン1「花」優秀賞入賞

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容