人間の卵

11
116

おれは「人間の卵」の研究を発表した──。
記者の一人が質問をする。
「博士、人間を卵で産むのに何の得があるんです?」
「出産の負担がなくなります。お腹の中で10ヵ月も待つ必要はなく、小さな卵をポンっと産むだけで済む」
「しかし、何か問題は⋯⋯」
「問題はないですね。卵も丈夫で割れる心配もありませんよ」
この画期的な研究は女性たちの強い支持を得て、すぐに実用化されることになった。母親は産んだ卵を暖かな保温器に入れ、あとは子どもが孵化するのを待つだけなのだ。

いよいよ、第一世代の卵が孵る日が来た。
広い室内に集められた数十個の卵は、母親たちの見守る中ぞくぞくと殻を破って出てきた。
と、そこへ一匹の野良猫が迷い込んできた。
「ニャーッ!」
と鳴く猫を、子どもたちが一斉にじっと見つめた。
おれは少し嫌な予感がした。

生まれたての子どもたちは、歩き去る野良猫のあとをゾロゾロとついて行った──。
SF
公開:18/06/03 16:38
更新:18/09/17 15:50

渋谷獏( 東京 )

(੭∴ω∴)੭ 渋谷獏(しぶたに・ばく)と申します。 小説・漫画・写真・画集などを制作し、Amazonで電子書籍として販売しています。ショートショートマガジン『ベリショーズ』の編集とデザイン担当。
https://twitter.com/ShaTapirus
https://www.instagram.com/tapirus_sha/
http://tapirus-sha.com/

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容