届かぬ手紙

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今日も手紙は返ってきた。

他人を騙し続けてきた。そうしないと生きられなかった。ある日ヘマをやって逃げる途中で車に跳ねられ、死んだ。

地獄にも刑務所があって、俺みたいな悪人は針の山や業火の釜風呂なんかで贖罪をする。苦しいけれど、仕方がない。罪には罰だ。
「今日も返ってきたぞ。良かったな」
一日の務めを終えて房に戻ると、鬼の看守が手紙を渡してくれた。スタンプで『宛名に尋ね当たりません』とある。それを見て、俺は安堵する。

死んだ事も地獄の責苦も甘んじて受けるが、残してきた娘だけが気掛かりだった。そんな俺の気持ちを知った鬼が手紙を勧めてくれた。もしも娘が地獄にいなければ手紙は届かない、と。それが精一杯だと。

あれからどれ程の歳月が経ったろう。手紙は毎日返ってくる。それを見て俺は安堵する。
もう生きていないとしても、天国にいて欲しい。
そして今日も手紙を書く。
届かない事を願いながら。
その他
公開:18/06/03 20:55
更新:18/06/04 23:59

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