乙女椿の恋

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庭の乙女椿が、恋をしたらしい。

椿の様子を見るに、お相手は隣家の庭先に咲く紫陽花だろう。
五月も半ばを過ぎた乙女椿は花の頃などすっかり終えてほとんどの花は散り落ちてしまったというのに、ただ一輪、その花を瑞々しく開いたままだ。顔いっぱいをピンク色に染め、数メートル先で花をつける紫陽花をうっとりと見つめていた。
紫陽花の方も満更でないのか、同じ薄ピンク色にがくを染め上げ、乙女椿を見つめ返している。
私はそんな二輪の恋路を、ひっそりと縁側で見守っていた。

ある朝のこと。いつものように庭先へ出て恋の花たちを窺うと、隣家の紫陽花の一輪が冴えた青へとすっかり色を変えていた。
ピンク色の紫陽花が咲く中の一輪の変化に驚き、私は慌てて植物図鑑を捲ったが、すぐに安心してページを閉じた。
そして庭へ下り、乙女椿へと声をかけた。

どうやらお相手の母なる土壌は、君たちの恋路にサンセイしてくれたようだよ、と。
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公開:18/06/02 12:05

ゆた

高野ユタというものでもあります。
幻想あたたか系、シュール系を書くのが好きです。

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