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宏美は手にメモする癖がある。買い物の内容や思いついた川柳などだ。
初めはボールペンで書いていたが手を洗った時に洗い流してしまうことが多く、手のひらメモ用に油性ペンを右手に持ち歩くようになった。
「あんた、その癖なんとかしな。見苦しいよ」
親も友人も呆れて言うが宏美はやめるつもりは無い。
油性ペンで書いた文字はなかなか消えない。書きたいことができても左手のひらにはもう書くスペースがない。メモは次第に腕を上っていった。上へ上へ上へ。一の腕、二の腕は長袖に隠れるために腕の裏側、表側、横、縦、前、後、メモは全方位に増えた。それでも書くべきことは増える。腕はびっしりと文字で埋まり耳なし芳一のような姿になった。
左腕に書く場所がなくなり宏美の動きは止まった。周囲の人間はこれで宏美の癖も収まると思った。しかし宏美は油性ペンを左手に持ち替えた。
右手のひらに一句。芳一も二度見するよな両手利き。
初めはボールペンで書いていたが手を洗った時に洗い流してしまうことが多く、手のひらメモ用に油性ペンを右手に持ち歩くようになった。
「あんた、その癖なんとかしな。見苦しいよ」
親も友人も呆れて言うが宏美はやめるつもりは無い。
油性ペンで書いた文字はなかなか消えない。書きたいことができても左手のひらにはもう書くスペースがない。メモは次第に腕を上っていった。上へ上へ上へ。一の腕、二の腕は長袖に隠れるために腕の裏側、表側、横、縦、前、後、メモは全方位に増えた。それでも書くべきことは増える。腕はびっしりと文字で埋まり耳なし芳一のような姿になった。
左腕に書く場所がなくなり宏美の動きは止まった。周囲の人間はこれで宏美の癖も収まると思った。しかし宏美は油性ペンを左手に持ち替えた。
右手のひらに一句。芳一も二度見するよな両手利き。
青春
公開:18/06/02 10:41
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