牛になった男

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今日からぼくは「牛」になった。
人気者の「牟」くんに憧れて、ほんの少しツノを付けてみたんだ。

しばらくすると、小さな箱の中の「午」たちが噂し始めた。
「なんだよあいつ、ツノなんか生やしやがってさ」
「シカトしようぜ」
その日を境に、ぼくにはトモダチが居なくなった。
「牟」くんの方がよっぽど変わってるのに、なぜ彼は無視されないんだろ。
あまりの孤独に耐えかねて、ぼくはツノを削って「午」に戻ろうとした。だけど今度は削り過ぎて「干」になってしまい、もっと無視されることになってしまった。
ヤケになり、自分を削って「十」や「一」、最後には「・」にまでなって存在が無くなりかけたときは、さすがにちょっと怖かった。

大きな箱に移るまでに、ぼくは頑張って「牛」になったけれど、気付いたら廻りもみんな同じ「牛」になっていた。
いまでは彼らと犇めきあって、とても落ち着いた日々を送っているよ──。
ファンタジー
公開:18/05/31 19:52
更新:18/09/17 15:50

渋谷獏( 東京 )

(੭∴ω∴)੭ 渋谷獏(しぶたに・ばく)と申します。 小説・漫画・写真・画集などを制作し、Amazonで電子書籍として販売しています。ショートショートマガジン『ベリショーズ』の編集とデザイン担当。
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