ゾンビ持論

私と娘はホラー映画が大好きだ。娘は高校生。この年頃だと男親は煙たがられるが私と娘の仲は良好だ。
今もこうして一緒に映画を見ては感想を言い合っている。
そんな娘だが、唯一ゾンビ映画だけは見ようとしない。私はそれがずっと疑問だった。
娘は言う。
「ゾンビ映画って今の社会の縮図に見えるの。意思のない、周りを真似するだけの人たちが自分の意思を主張する人に噛みつく。噛みつかれた人はどんどん弱っていって、いつかは同じように、意思のない周りと同じことをする人になっていくの。同じように噛みつく側になる…それってゾンビ映画と同じじゃない？」
成程。分からなくもない。
事実、私も娘も流されるまま周りと同じことをしている。
娘の瞼から眼球が零れ落ちる。私はそれを拾って戻してやった。
「大丈夫。我々はもうゾンビかもしれないが心までは死んでいないよ」
私達も噛みつかれ、ゾンビになった。
だが、心までは死んでいない。