ひと夏の海の家

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「ひと夏、海の家をやりたい」と妻が言った。
レストラン経営は引退した、時間はある。
妻が一人ですすめていた。
海の家の基礎ができつつあるというので、夫はこっそりと見にいった。
妻と見知らぬ男が肩を寄せ合い、口づけを交わしていた。
そういうことか! 夫は二人の背後から近づき、レスキューハンマーを振り下ろした。二人の体は、まだ乾ききっていないコンクリートの中に沈んでいった。
海の家は繁盛した。一夏の店には不釣り合いなコンクリート製のしっかりとしたものだけれど。
夏の終わりに、建築事務所から人がきた。
「必要なものは、運び出しておいて下さい。埋もれてしまいますので。この家は、時限コンクリートでできてて、一定期間が過ぎると、ただの砂に戻るのです」と。
土用波が立ち始めたとき、コンクリート製のレストランは崩れて、砂になっていった。
砂は次の現場で使うため運び出される。そして、砂の中からは……。
ミステリー・推理
公開:18/05/31 23:28

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