コップの中の嵐

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「今度こそ、こいつで優勝するぞ!」
 俺はコップの中で渦巻いている、生まれたばかりの嵐の子を愛おしく眺めた。
 気象予報のために開発された大気の運動をミニチュアで再現できるシミュレータは、年々小型化が進み、今やコップの中で動かせるようになっていた。
 それを利用して人工的に嵐を引き起こし、その威力を競うゲーム「闘嵐」が今、大ブームなのだ。
 コップをヒーターにかけ、慎重に海面温度を上昇させて熱帯低気圧が成長していくのを俺が眺めていると、無粋にも妻が水を差してきた。
「ねえ、早く来て!」
「いま手が離せない。後にしてくれ」
 温度を一定に保つことが良質の嵐を育てるコツだというのに。
「津波がそこまで迫ってるっていうのに、もう知らない!」
 妻はドアをバタンと閉めて出ていった。
「ほんと、台風の目みたいな女だな」
 嵐の前のような静けさの中、コップの中の嵐の音だけが俺の耳に快く響いていた。
 
SF
公開:18/05/31 22:25

ToshijiKawagoe( 北海道 )

・『SFマガジン』 2011年10月号「リーダーズ・ストーリィ」 掲載
・『公募ガイド』第22回小説の虎の穴、佳作
・ 樹立社ショートショートコンテスト2012、5等星
・ 第157回コバルト短編小説新人賞、もう一歩の作品
など、SF、ミステリ、童話、純文学など分野を問わず、ショートショートから短編、長編にとチャレンジしてきました。
 しばらくご無沙汰していましたが、最近復活しました。

ブログ http://rashi.cocolog-nifty.com/
 

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