海の夢

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しなびた場末の占い師から、薬を買った。
「いい夢が見られますように。」
まるで海老のように腰の曲がった老婆は、そう言って笑った。

一錠飲んでみると、夢を見た。海の音が聞こえる夢は、不思議と落ち着く夢だった。
翌日は二錠飲んでみた。潮騒に加え、海の匂いを感じた。何故か懐かしい夢だった。
次の日は、三錠飲んだ。足をくすぐる波に、少しだけ泣いた。
目が覚めたとき、頬が少し濡れていた。指で拭って口に運ぶと、海の味がした。
そのまま、残りの四錠を全部飲んだ。引き込まれるように夢に落ちる。

海に抱かれる夢を見た。泳ぐでもなく、漂うだけの幸せな夢だった。

「おはようございます。旦那さま。」
あの占い師に似た海老が、意地悪く言う。
「昼寝が過ぎると、体に毒ですよ」
あくび混じりのひと伸びで海老を追いやり、海面に背を出し大きく潮を吹く。
海を去ったかつての仲間の気持ちは、やはりわからないままだった。
ファンタジー
公開:18/05/31 22:21

小梅

知識不足ゆえご迷惑をお掛けすることも多いかとは思いますが、
ご指導頂ければ幸いです…。

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