ひみつのお寿司

4
92

今週も仕事が忙しかった。
自分にご褒美をあげないと、枯れてしまう。
そうだ、美味しいものを食べよう! 私は車を走らせた。
『寿司処 海』
ここは店主が一人で切り盛りする海沿いの店。
緊張感のある究極の美味しさで癒してくれる。

「じゃあ、赤身から」
私の注文に黙って頷く。
ほほ肉、中トロ、かま……自分の体に包丁を入れ、丁寧に身をそぎ落とし、手早く握ってくれる。
「ハツもいいかしら」
彼は無言で包丁を光らせ、心臓へ向けた。
命の甘みが、あたたかさが、口の中にうっとりと広がり、心を包む。
職務を全うした魚店主は、満足そうにこちらを見た。
「今日は目玉もいただくわね」
私は人差し指で彼の目玉をえぐり、そっと口へ運んだ。

「ごちそうさま。元気でたわ」
お礼を言い立ち上がると「このあとお椀が出ます」と小さな声が聞こえた。
骨だけになった店主は、鍋の海に飛び込み、満足そうにゆらゆら泳ぎ出した。   
ホラー
公開:18/05/31 21:30

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容