言葉の海

その「海」は言葉でできていた。
ある日突然、｢青」と「波」という文字で、海の表面が覆い尽くされてしまったのだ。

試しに「青」という文字を取り上げてみると、それは手のひらの上で「水」という文字に変わる。
釣り糸を垂れてみると、｢魚」という文字がよく釣れた。ぴちぴちとイキのいい「魚」は、バケツの「水」という文字の中を元気に泳ぎまわった。

ぼくは、意を決して「言葉の海」にダイブした──。
｢青」という文字に埋め尽くされた海中を、｢魚」の文字が群れをなして泳いでいる。
どんどんと深く潜っていくと、海の底から文字が吹き出している「謎の穴」を見つけた。おそらくこれを破壊することで、この不可解な現象も終るに違いない。
ぼくは急いで船に戻ろうとするが、穴からは「渦」という文字が大量に吹き出し始めた。

まずいと思った時はすでに手遅れだった。
大量の「渦」の文字に巻き込まれ、ぼくは言葉の海に溺れた──。