悲しみ日本海

0
96

涙も枯れた目で見たテレビの中、刑事が犯人を追い詰めた。波頭砕ける崖で犯人が語る。『愛もお金も夢も。あの男は全てを奪った』
「ああ、わかるわ。私も同じ」
そして私は電車に乗った。

冬の海、吹きすさぶ海風が私の耳にゴウゴウと語りかける。いっそ海に入ってしまえと。
その時だった。

「うをー!」
雄叫びが聞こえた。びくっとして振り返る。裸にフンドシ一丁の男たちが数十人、松明を掲げ駆けてくる。
「きゃあ!」
倒れた私に目もくれず男たちは海に突進する。
「よいやさ!」
「よいやさ!」
威勢のいい掛け声をあげ、男たちは松明に海水をかけあう。炎はすぐに消えた。

遠くで写真を撮っている男がいた。
「これは何してるの?」
尋ねると男は嬉しそうに話し出す。
「塩釜祭じゃ。あの枝を今から焼いて採れた塩を分けるから、もらって行きな。幸せになれる」

貰った塩の包みに鼻を近づけた。
生きている幸せは汗臭かった。
青春
公開:18/05/30 08:39

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容