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「鼻毛出てるよ」

気軽にそう言った彼女の明るい言葉に僕は恋をしてしまった。
そして押して押して押しまくりようやく恋人になってもらい、押して押して押しまくりようやく結婚してもらい数十年が過ぎた。

その間いろいろあったけど、彼女はいつでもはっきりと言ってくれた。

「口臭ひどいよ」

「アホ毛立ってるよ」

「加齢臭出てきたね」

彼女は本当になんでもズバズバ切って捨てるように注意をくれる。
僕は彼女と一緒じゃなかったらどれだけ間抜けに生きてきたか分からない。

そんな彼女も年をとり色々なことを忘れるようになってしまった。僕が見えているのかいないのか、いつもぼうっとしていた。

「あなた、いつも鼻毛が出てるわね」

気軽にそう言った彼女は僕を置いて逝ってしまった。
あちらへ行った時に彼女が一目で僕と分かるように、僕は鼻毛を伸ばし続けている。
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公開:18/05/29 22:27

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