ひねくれ者

　会いたかったのに、会いたくなかった。気も遠のくほど、追いもとめていたのに。まずはじめ、涙がぼたぼたとこぼれ落ちた。それでだからもう観念した。
　（会いたかった。死ぬほど、くるおしいほど）
　けれど呼ぶ名が咄嗟に見つからなかった。吹き荒れる感情の波は堪え切れずにあふれんばかりに盛んに声となって叫んだ。すると不快な感覚が全体へ伝った。
　……すると、やわらかな感触が全体を包んで、やわい重みがゆっくりゆっくりとやさしくやさしく覆う。そのやさしさにもうどうしようもなくなった。
　うれしいのに、いや、うれしいからこそどうやって表わせばいいのか、その手段を知らなかった。だからあるもので力任せに動かし、がむしゃらに、うれしくてうれしくてたまらなかったから、わぁわぁわぁと泣いた。そしたら力強い手ごたえが返って来てとても安心した。へとへとになってやがて……まどろんだ。
　（ぼくを生んでくれて、ありがとう）