クーラーに愛された男

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その男が歩くとすべてのクーラーが彼に風を吹きかける。
デパートの自動ドアが開けば強い愛の風が彼を出迎える。
会社のクーラーの吹き出し口はすべて彼に惹かれて方向を変える。
自宅でクーラーをつけると風量設定を弱にしていても強風が止まらない。

彼は夏の暑さとは無縁だ。クーラーに愛され冷風に不自由しない彼を周囲の人たちは羨ましがる。
とくに彼の恋人は、夏の間ずっと彼の家に入りびたる。

「いいなあ。ともくんはクーラーに愛されて涼しくて。うちのクーラー、私のこと嫌いだからなあ。生ぬるい風が吹くんだよ」

部屋に来た恋人があまりに嬉しそうに涼むので、彼は彼の苦悩を話すことができずにいた。
いっそのこと恋人と別れようかとすら思うほどだった。
しかし愛は強く、彼は諦め顔で彼女に指輪を贈った。

クーラーを捨てることを諦めた彼は、ひどい冷え性に悩み続けたまま、彼女と一生付き合う覚悟を決めたのだった。
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公開:18/05/29 20:43

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