海に還る

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 祖母は海とともに生涯を過ごした。
 海辺に生まれ、家業の漁を手伝い、漁師に嫁ぎ、ともに海に出て、子どもを産んだ。近海が埋め立てられ、遠海から夫が帰らなくなった後は、埋め立て地の水産工場で働き、家族を育てた。
 海辺が埋め立てられ、家々が並び、海が遠くなっていっても、祖母が私を膝に抱いて繰り返し語るのは、穏やかな近海、厳しくも豊かな遠海、踝を洗う小さな波、舟を飲み込む大きな波。
 子どもたちの記憶から海が薄れるにつれ、祖母の記憶は蜃気楼となった。
 施設から何度も抜け出し、埋立地を漂う先にみているのは、いつも海。

 だから、あの春の日。

 大きな波は、祖母も、家々も、埋立地も、もとの海に還したのだと、私は思う。
その他
公開:18/05/27 20:01

techtech

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