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 海沿いの街で育った私には「海の人」が見えました。海の人は、海から人型の影が生えたような人々のことで、私は長い人生の中でその姿を度々見かけました。 
 まだ私が中学生の頃、浮き輪の上で波に揺られながら日光浴を楽しんでいた時のことです。
 なんだか近くに誰かがいる気がして目を開けると、海の人が数人で私のことを覗き込んでいました。不思議と怖くはありませんでした。
 日が傾きかけ、私が「もう行かなくちゃ」と言うと、海の人は私を砂浜まで送ってくれました。砂浜からお礼をいうと、海の人は手をひらひらと振って海に帰っていきました。

 あれからとても長い時間が流れ、身寄りのない私の骨は海に撒かれました。

 今、私は海の中から海沿いに建てられた家を眺めています。家の窓から小さな女の子がこちらに向かって手を振りました。
 私が手を振り返すと、女の子はパッと顔を輝かせ家の中に戻って行くのでした。
ファンタジー
公開:18/05/27 11:40

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