願う以上の瞬間を

0
83

「願い事って、この年になってそんなもんないぞ」
「あなたはこの年にならなくても、ずっとそう言ってたわ」

妻がズイっと渡してきた小さな短冊を受け取り、ボールペンをカチャカチャいわせ、書くことを考える。毎年律儀に短冊を書かされるのだが、これがまあ、何も浮かばないのだ。

「だいたい、願ったなら叶えろって誰かが歌ってる通りだろ。自分でなんとかしなきゃいけねぇんだ」
「他の女の子が聞いたら非難轟々よ」
「既に非難轟々なことに気付いてないのか」
「あらそれは失礼」

こんな時間が続けばいい、と思う。
こんな時間を続けさせる、と決意する。
俺の願い事は、そんな風に一瞬で願い事ではなくなる。

「いいのよ。私はその一瞬が好きなの。あなたの一瞬をひとりじめしたいの。付き合ってもらえない?」
「本当、物好きだな」

妻のために切り取った一瞬を、短冊に詰め込んだ。
恋愛
公開:18/05/28 09:38

どーみや

空に煌めく星を優しい声で包んでいる空間が好きな者。
他愛ない日常を書き留めておきたい。

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容