赤い鈴の音

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その鈴は赤くて丸くて小さくて、さくらんぼみたいだった。揺らしてみる。ちりり、とは鳴らなかった。
「こうするんだよ」
恋人が指先でつんと鈴を突く。口元に近づけて何か囁いてまたつんと突く。すると鈴はちりりと揺れた。
「耳元で聞いてみて」
恋人の言う通りに耳元で鈴を揺らした。鈴の音の代わりに恋人の甘い声がした。
「あ、赤くなってる」
恋人はくすくすと笑った。この軽やかな響きが鈴の中に収まっていた。

赤い鈴は指で突くと短い言葉を録音した。鈴に音が入っている時、遠くで聞くと変哲も無い鈴の音だが、耳元で聞くと録音した声になった。新しく録音すると前の言葉は消えた。二人は言葉を送りあった。一人で寝る夜は、いない恋人の声を聞いて眠った。

最後に録音された言葉は「さよなら」だった。
赤い鈴はもう言葉を上書きされることなく、何年もしまわれてある。
でも鈴が鳴らした恋人の声は、今でも記憶の中で響いて消えない。
恋愛
公開:18/05/26 12:37
更新:18/05/26 14:24

砂塵

読んでいただきありがとうございます。
話のおもしろさ云々はひとまず置いといて、とりあえず一本完結させることを重視して書いてます。
朗読ラジオ「月の音色リスナー」です(^o^)/
低浮上中なのでコメント返し遅れるかもですが必ずお返しします。

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