かざす手

おじさんは、いつもそこで誰かに手をかざしていた。
ある時は顔の前に、ある時は頭の上に。

私はいつも乗るバス停から道を挟んだ反対車線のバス停でその光景を毎日見ていた。

数秒、数十秒か手をかざしてもらった人は皆笑顔になりそして何か話して去って行く。
ほとんどの人はバスに乗らない。おじさんも私が知る限りずっとバス停に座っている。

ある日、いつもの様にバス停に行くと向こう側にはおじさんだけが座っていた。
道路には車もなく、私はおじさんと二人になった。

するとおじさんがこちらを見て微笑み右手を小さく上げた。つられて私も頭を下げた、次の瞬間。

「今日は最高、明日ももっと最高」と聞こえた。

思わず顔を上げるとおじさんの開いた手は親指を立てたグッドになった。私は驚きながらもそれに返す様に右手を少し上げた。

それからすぐにバスが来た。私の上げままの右手に今度はバスの運転手が手を上げてくれた。