美しき妖海

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朝。テトラポットの上に、妙な女が忽然と現れた。小麦色の肌に鱗のようなものを纏っている。人間ではないのだろう。青く妖艶な瞳で僕をじっと見ていた。
女はブロンドの髪を靡かせ、艶のある唇を開いた。
「ねえ、人魚のほうがよかった?」
「そういう妖怪は好みじゃないんだ。で、君はどこから来たの」
「海よ。あなたは」
「陸から来たんだ」
女は吹き出し、無垢な少女の笑みを浮かべた。
彼女がポセイドンの末裔であること、僕が余命一年であることなど、夕暮れまで語りあった。
砂浜に二人の影が一つに重なった刹那、女は砂となって崩れ落ち、海風に吹かれ消えた。
人間との恋は許されなかったのだろう。

一年後。月光が敷き詰めた波の上。僕たちは再会した。
「陸に飽きたんだ」
「隣の部屋が空いてるわ」
「いい提案だ」
海と神に彼女との永遠を誓い、唇を交わした。

朝。エメラルドの海空が、僕たちの未来を照らしているようだった。
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公開:18/05/22 22:41
妖怪

豊丸晃生( 大阪 )

ショートショートの神様、星 新一を崇拝しています。お笑い好きで怪談も好き。
お笑いネタのような作品が多いですね(笑)
【受賞作品】
「渋谷シティ」
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞受賞。
「我が家の食卓」
ベルモニーショートショートコンテスト入賞。
「電車家族」
隕石家族ショートショートコンテスト入賞。
「大男の力自慢大会」
「スカイフィッシング」
空想競技2020ショートショートコンテストW入賞。

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