誘海犯

異変が起こったのは、誰もいないカリブ海の沖の方だった。

突然、エメラルドの海が切り取られたのである。十メートル四方の水槽をスポンと抜き取ったように消えたのだ。

瞬く間に、その空洞は海で満たされ、元の状態に戻った。

十年後。

その男は、巨大な水槽を見上げニヤリとした。タイムマシンで海を空間移動させ、過去からカリブの海を奪い去ることに成功したのだ。彼は未来に影響のない海に目を付け、海を捕獲しているのだ。水槽の中では、希少価値の高い熱帯魚が浮遊していた。

オークション会場はどよめいた。カリブの海が出品されたのである。この時代、純度の高い海は高値で取り引きされていた。

「こちらは２０１８年のカリブ海です。あの絶滅危惧種といわれた熱帯魚たちが、人生に潤いと安らぎを与えてくれるでしょう」

海は百万ドルで落札された。

男は札束を積み上げ、つぶやいた。


「いい水商売だ」