幻想動物見聞録・三春の場合

どうみてもその人、トカゲでした。
お父さんの学生時代の後輩が喫茶店を開いたというので、一緒についていったのですが、どうみてもトカゲでした。清潔なシャツ、お洒落な眼鏡、丁寧できめ細やかな所作、物静かで無愛想だけど優しそう。でも……トカゲで。グァテマラのスペシャリティコーヒーを運びながら、喉奥から唸り声のような低い声で「お待たせしました」って話すんです。人間みたいに。思わずまじまじと見つめると、父に「そんな人の顔を見る奴がいるか」って叱られました。でもトカゲですよ？見ますよね？我慢できなくて、「爬虫類顔って言われません？」て 聞いて見たんです。そしたら「初めて言われました」って。嘘だって笑うと向うも笑ってて、素敵でした。

なんとなく横顔が好きなんですよね。鼻筋通ってて目も大きくて。無愛想で寡黙だけど優しくて。
なにより手首がすごく綺麗で……。

先生、私ね。
トカゲなんですけど、好きみたい。