願い事
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「願い事をどうぞ」
駅前に設置された笹の前で浴衣姿の女性が私に短冊を差し出した。
「おばあちゃんを生き返らせて下さい」
そう書いて渡すと彼女は見なかった振りをした。裏返しに笹に結び、私とは目を合わせずにまた往来の人々に短冊を配り始める。無理もない。三十女の願い事としては異常だ。
子供の頃、おばあちゃんは私が落ち込むと膝に乗せ抱きしめてくれた。そこでひとしきり泣くとすっかり元気になれた。
一か月前男と別れた。私には突然だったけれど、彼の心が冷めきっている事ははっきりと分かった。泣くことも出来ず、以来私はホルマリン漬けみたいに孤独を満たした瓶に閉じ込められている。
願い事を書けと言われ、心底おばあちゃんに会いたいと思った。
「舞!」
突然呼ばれて振り向くと女の子が転んでいた。駆け寄った母親が私と同じ名の子を抱きしめる。
その瞬間、おばあちゃんの匂いが私を包んだ。涙が頬をこぼれ落ちた。
駅前に設置された笹の前で浴衣姿の女性が私に短冊を差し出した。
「おばあちゃんを生き返らせて下さい」
そう書いて渡すと彼女は見なかった振りをした。裏返しに笹に結び、私とは目を合わせずにまた往来の人々に短冊を配り始める。無理もない。三十女の願い事としては異常だ。
子供の頃、おばあちゃんは私が落ち込むと膝に乗せ抱きしめてくれた。そこでひとしきり泣くとすっかり元気になれた。
一か月前男と別れた。私には突然だったけれど、彼の心が冷めきっている事ははっきりと分かった。泣くことも出来ず、以来私はホルマリン漬けみたいに孤独を満たした瓶に閉じ込められている。
願い事を書けと言われ、心底おばあちゃんに会いたいと思った。
「舞!」
突然呼ばれて振り向くと女の子が転んでいた。駆け寄った母親が私と同じ名の子を抱きしめる。
その瞬間、おばあちゃんの匂いが私を包んだ。涙が頬をこぼれ落ちた。
ファンタジー
公開:18/05/20 00:18
更新:18/05/20 00:24
更新:18/05/20 00:24
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