別ればなしは決まっていたのに

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 このままでは、私は彼女を殺しかねない。
 浜と海の境界で赤の花柄を翻す黒ワンピースの中身を何度も昨夜、掌中に収めても彼女は私のものにならない。私は、追いかけるのをあきらめて、砂浜の上に座り込んだ。
 (もう十二年だ。十二年経った、もう止そう)
 とシャンプー荒れした手を見つめ空を見仰いだ。目に入り込んだ太陽の眩しさと磯の匂いがツンとしみて涙が出た。
 (これで最後だ。最後にしよう)
 先月、お見合いをした。加瀬亮似の誠実で優しそうな男性だった。幾重も嘘を重ね男女ともお構いなしに浮気をくり返す彼女より添い遂げる相手にはぴったりだろう。
 私は心を決めた。立ち上がって彼女の肩を掴んだ。私が別れを言うより早く彼女は滅多に声を出さない喉でこう遮った。
「私、今……きこえないことを忘れていたわ」
 それにどんな意味が込められているのか、私はすべてを理解して泣き喘ぐ彼女と共に泣いた。
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公開:18/05/20 19:01
更新:18/05/22 01:53

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