「リッパー」

「リッパー取って」と、彼に言った。
「リッパー……」と、彼の視線が宙をさまよっている。
どうやら妄想癖のスイッチが入ってしまったようだ。

リッパー。
ブルドーザーなどの建設機械装備。巨大な爪で地面や岩を砕く。

そう、俺は最強の武器を手に入れたのだ。さぁ、どこからでもかかって来なさい。このリッパーで砕いてやる。
殺人鬼ジャック・ザ・リッパーも真っ青さ。

「ちょっと。何、ニヤニヤしてんのよ？　私が言ってんのは裁縫のリッパーだからね」
「裁縫？」

スティッチリッパー。
小型の裁縫道具。はさみの代わりに縫い目などを切る。

「要するに、糸切りよ」
「糸切り？　おいおい、そんなんじゃ……」
「あんた、何と戦ってんのよ？」

おそらくリッパーという言葉の響きが気に入ったのだろう。
そんな彼の妄想癖は……。

立派。