碧色の恋人

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恋人を亡くした男が居た。葬儀は海葬だった。海蘊の柩に横たわる恋人は、生前と変わらぬ愛らしさ。今にもその碧い瞳が瞬くのでは、と男は何度も頬を撫でたが、恋人は目覚めなかった。柩は船で沖まで運ばれ、海底へと沈められた。
海から生まれ、水の身体で生き、最期はまた海へ還るのが人だという。
ならば、と男は思い立った。海の水を固めて、再び恋人に出来ないか。
男は岩場に棲むという呪術師を訪ねた。呪術師は言った。「恋人の四十九日の黄昏時、一番紅い海水をこの小瓶に掬いなさい」
当日、男は小舟で沖まで漕ぎ出た。沈む夕陽の紅が溶け込む海面に、小瓶を潜らせ、呪術師の元へ駆け込んだ。
呪術師は首を傾げた。これのどこが紅いのだ、と。小瓶の中身は無色透明な水だった。くずおれた男の頬を呪術師が撫でた。
「逢えなくても、いつも貴方を想っているわ」
男が顔を上げると、呪術師の姿はなく、碧色の水溜まりがひとつ、静かに輝いていた。
ファンタジー
公開:18/05/19 08:41
更新:18/07/10 08:18

rantan

読んでくださる方の心の隅に
すこしでも灯れたら幸せです。
よろしくお願いいたします(*´ー`*)

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