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水族館の水槽でイルカは夜空を見上げた。満月の夜は海を思い出す。全速力でイワシを追った大海原。ジャンプした時の波の飛沫。遠くに見える水平線。どれもが遠い昔の事だった。自慢の背びれは倒れるように曲がってしまった。狭い水槽の中で筋肉が衰えてしまったのだ。
帰りたい!
イルカは月に向かって叫んだ。すると月の光が梯子のように水槽の近くまで伸びてきた。イルカは大喜びでジャンプした。しかし、もう少しの所で梯子には届かなかった。何度もイルカはジャンプを繰り返した。何度水槽に体をぶつけてもイルカは諦めなかった。
今度こそ!
イルカは水槽をグルグル回って加速して大きくジャンプした。
届いた!
その瞬間イルカは空に浮かんでいた。尾びれを大きく動かしグングンとスピードを上げて夢中で星々の海を泳いだ。曲がっていた背びれはいつの間にかピンと立っていた。
海だ。帰ってきたんだ。
イルカの瞳から涙が零れ、流れ星となった。
ファンタジー
公開:18/05/19 00:08
更新:18/05/23 20:53

のりてるぴか( ちばけん )

月の音色リスナーです。
ようやく300作に到達しました。ここまで続けられたのは、田丸先生と、大原さやかさんと、ここで出会えた皆さんのおかげです。月の文学館は通算24回採用。これからも楽しいお話を作っていきます。皆さんよろしくお願いします。

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