破壊猫

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この雑居ビルの角を曲がるたび、私はあの日の過ちに苦しめられる。私の時間はあの日で止まったままだ。

でも今日はいつもとは違う。私の傍にはかの有名な破壊猫がいる。額に赤く光る痣のある猫で、抱き上げて強く念じれば、自分が消えてほしいと願ったものを破壊してくれる。もともと猫の多いこの街だが、破壊猫と会える確率はそう高くない。今日しか、今日しかチャンスがない。
私は例の雑居ビルを見上げてふっと息をついた。そして破壊猫を抱き上げて精神を集中させた。

このビルさえなくなれば、あの日の記憶も消えるはず。
今日で私が苦しむのも終わりだ。

破壊猫が私の腕から逃げ出したかと思うと、ビルが音を立てて崩れ落ちてきた。でもなぜだろう、私はそこから動くことができず、その場に倒れこんでしまった。瓦礫の雨に振られて、意識は遠のいていった。

私が本当に消してしまいたかったのは、私自身だったのかもしれない。
SF
公開:18/05/19 20:39

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