海の種

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少年時代、彼は海の種を見つけた。
植えれば海が成る、不思議な種だった。
彼は、家の庭にその種を植えた。
夏休みに入り、彼は自分だけの海を手に入れた。
毎日育てた海で、友達と遊んだ。
小さい小さい海だったが、彼はその海が大好きだった。
潮の香りは、彼が誰よりも自由であることを感じさせた。

夏休みが終わる日、海は消えてしまった。
彼は、なぜか寂しくなって、ただ泣いた。

時は流れ、彼は大人になった。
友達と遊ぶことも少なくなり、仕事に追われる日々を過ごした。
そして年老いて、何もかもが億劫に感じられるようになってきた、ある日。
彼はあの時と同じ、海の種を見つけた。
彼は急いで庭に埋めた。
少年時代、自分だけの海で遊んだ記憶に思いを馳せた。
しかし海は育たなかった。
彼は、自由に遊びまわったあの日々は、もうこないと悟り、あの時と同じように、ただ泣いた。
流れた涙は、あの時の海と同じ香りがした。
その他
公開:18/05/19 19:32

rone

こんにちは。

1話完結型の物語が好きなので、自分でも書いてみようと思い立ちました。

普段はブログでくだらないことを書いてます、よろしければ息抜きにどうぞ→https://vctaqrone.com

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