夢の末裔

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 何世紀にも渡って人類を支えてきた「夢」も老いた。若い頃のように限りなく自分自身を再生産することができなくなった。だが、再生産し続けなければ夢は死んでしまう。人間の身体と同じだ。限りなく細胞を再生産しているから、細胞が死に続けても生きていられる。それが止まるのは死ぬ時だ。

 夢は自分の死期を悟った。自分はもうすぐ死ぬのだ。夢の再生産の速度が死ぬ速度よりも遅くなっている。すぐにはっきりわからないが、確実に夢を持たない人類が増加している。それは文明と社会を蝕んでいる。
 否定しかしらない者、攻撃しかしらない者、努力や熱意を笑う者、夢が死んだ分、そういう人間が増えた。

 かつて地には夢があふれていた。いまは絶望と怨嗟に満ちている。最後の夢が死んだ時、地球にはまだ人類の輝かしい文明があった。
 数年後、地球にはただ風が吹く荒野が広がっていた。
ファンタジー
公開:18/02/20 11:03
ショートショート10番勝負

一田和樹( バンクーバー )

小説を書いています。
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公式サイト http://ichida-kazuki.com 
ツイッター @K_Ichida
使用している写真は全て私自身が撮影したか描いたものです。

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