勇敢な文鳥

　巷で文鳥ブームが到来した。飼育実態調査の結果によると今では犬猫よりも文鳥を飼う家庭が多いらしい。独り暮らしの男性から大家族の家まで誰もが文鳥を飼う。
　突如広まったこの流行は、ある家庭で飼われている一匹の勇敢な文鳥の物語に起因する。飼い主が心臓発作で倒れたときに、この文鳥は嘴を器用に使って電話で119を押したのだ。そしてピーピー鳴いて危険を伝えた。文鳥のおかげで飼い主は一命を取り留めた。
　感動の物語は新聞やテレビで広く伝えられた。渋谷駅前にはハチ公の隣に文鳥の像が立てられるらしい。文鳥は一躍国民的な立ち位置を手に入れた。
　だが、問題が起こった。電話をつつく癖を覚えさせるため飼い主が躍起になって電話をつつかせる。文鳥は嘴で物をつつけば飼い主が喜ぶということを知り、電話以外のものも見境なしにつつく。人間も家具も自分の嘴もボロボロになり、文鳥ブームはすぐに沈静化してしまった。