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「キスしてくれないの?」
 寒い冬の日だった。僕らは酔っていて、先輩は遠距離恋愛中で、彼氏に浮気疑惑があって、僕は先輩が好きで、しないわけがなかった。夢なら覚めないで。
 


「え! 久しぶり!」
 再会したのは偶然で、夏祭りの夜だった。先輩は変わらず綺麗で髪を明るい色に染めていて、それがよく似合ってた。近況を話しながら祭囃子の通りを夜を泳ぐ金魚のようにゆらゆら歩く。ふと先輩の姿を見失う。僕は人混みの中を先輩の名を呼びながら探し回る--



 アラーム。朝だ。夢は遠ざかって消えた。先輩とはあの晩だけの関係で、再会なんてしてない。僕は違う女性と恋をして結婚した。現実の妻と子供が隣で寝息を立てている。
 先輩は今どうしてるだろう。
 何かの弾みで、僕を夢に視たりするだろうか。
 昨日の夢。もしかして先輩も同じ夢を……。

 そこまで考えて我に返る。自嘲しながら僕は、アラームを止めた。
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公開:18/02/20 00:59

木船田ヒロマル

カクヨム×B☆Wコラボコンテスト受賞作でデビュー。
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