第19話「エアコンを買いに」

居間のエアコンが壊れた。夏には必要だからと思い、姉妹三人で駅前の家電量販店へ行ったら、横柄な店員に茜がキレた。
「他の店行こう」
すると、翠が躊躇いながら言った。
「行きたいお店がある」
私が頷くと、翠は先に立って歩き出した。家の方向だ。足取りを見て、あっ、と思った。
「ここ」
やっぱり。家の近所の、小さな小さな電気屋さんだった。「冬の大商談会」という派手なノボリが立ってはいるが、客が入っているのを見たことはない。私も朝晩、前を通り過ぎるだけだ。
中のおばあちゃんに話をすると、申し訳なさそうな顔で、
「うちはこれしかないのよ」
と、たった一台のエアコンを見せてくれた。
「これが丁度いいよ。おばあちゃん」
私がそう言うと、茜も翠も頷いた。おばあちゃんは嬉しそうに、何度もお礼を言って見送ってくれた。
「おばあちゃん、また来るね」
葵姉ちゃんありがとう、と言って喜んだ翠の顔を、私は忘れられない。