第18話「茜と晴」

バレンタインの日、寒空の公園でチョコを分けた晴とは、以来疎遠になっていた。
これが急接近てやつか、なんて思っていたけど、逆だ。教室での晴はまるであの日の事を忘れたみたいに振る舞っている。
一体なんなんだ、と思っていた矢先の放課後、バイト先に急ぐあたしを晴は呼び止めた。
「バイトかよ」
「そう。部活は？」
「行くよ。茜さ、」
自転車置場まで来て、足が止まった。
「最近全然喋んねーじゃん」
だって。晴が喋んないんだもん。
「……用事ないし」
「用事ねーの？」
晴は目を丸くする。
聞きたいことはいくらでもある。
あれってなんだったの？　あたしたちってどうすんの？
「晴はあんの？」
「んー」
答えあぐねて晴は俯き、足で地面を蹴る。あたしはもう、晴の顔が見られない。なんでこんな風になったのか。
「別にねーか」
「行くね」
「おう。頑張れ」
自転車を漕ぎ出して、息を吐く。
頭の中は晴でいっぱいなのに。