おでん

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北国に引っ越して初めてできた友達の家に遊びに行ったとき。彼はぼくに「おでん」をしようと言いだした。
「おでんをする?」
どういうことかと尋ねると、彼は言った。
「知らないの? こっちのほうでは有名な遊びだよ」
彼が取り出したのは、木箱に入った積み木だった。なるほど、ここでは積み木のことを「おでん」と呼ぶのか。そう思っていると、友達は積み木をお母さんに渡して何やらお願いしはじめた。
しばらくすると、鍋が運ばれてきて驚いた。中には先ほどの四角や三角の積み木が入れられていて、まるでおでんの具材のように煮立っていたのだ。
「これを箸でどんどん積んで、先に崩したほうが負け。暖もとれる昔からの遊びなんだ。柔らかいし滑るから、ヒヤヒヤするよ。でも、大人とやったらズルばっかりでつまらない」
「ズル?」
尋ねるぼくに、彼はこぼした。
「うん、すぐにおでん同士が引っつきやすいようにするからさ。カラシを使って」
その他
公開:18/02/19 21:30
トーキング ウィズ 松尾堂 柳家花緑師匠 松尾貴史さん 加藤紀子さん

田丸雅智( 東京 )

1987年、愛媛県生まれ。東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒。現代ショートショートの旗手として執筆活動に加え、坊っちゃん文学賞などにおいて審査員長を務める。また、全国各地で創作講座を開催するなど幅広く活動している。17年には400字作品の投稿サイト「ショートショートガーデン」を立ち上げ、さらなる普及に努めている。著書に『海色の壜』『おとぎカンパニー』など多数。

◆公式サイト:http://masatomotamaru.com/

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