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 晩年の母は、かなり痴呆が進み奇行が目立った。
 ヘルパーさんの話では湯船にちぎったメモを浮かべたり冷蔵庫に靴下を何足も入れて冷やしたりしていた。
 今週会いに行った時には玄関に真新しい鳥籠があり、中には近所の書店のサービスカバーが掛かった文庫本が一冊置いてある。
 僕は溜息をつくとリビングの母に話し掛けた。
「新しいペットかい? 母さん」
「ペット? ああ、鳥籠の小説の事ね。あれはペットなんかじゃないの。本が何かの弾みで鳥になったみたいなの。ああしとかないと飛び回って部屋中めちゃくちゃにしちゃうのよ」
「……エサは?」
「水に晒したメモを良く食べるわ。それと暑がりで、夜は冷やした靴下の中で寝るの」
「そうかい……そろそろ昼ご飯だね。何食べる?」
「もうそんな時間? エサの時間ね」
 母のその言葉どおり、確かに玄関から聴こえて来た。
 ギャアギャアと言う声とバサバサという羽音が。
その他
公開:18/02/19 14:54

木船田ヒロマル

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