文長さん

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 古典落語を研究していて気がついた。文長さんは文鳥の間違いではないかと。
 その落語にはこのようなセリフがある。
「あのよう、文長さんが空から飛んできてよう」
 文長さんは空を飛べるのだ。さらに続いて
「熊八の手にのりやがったんだ」
 これはどう見ても手乗り文鳥だ。新たな研究成果をまとめて学会に赴くと、別の研究者が同じ落語で真逆の発表をしていた。
「江戸時代には空を飛べる人間がいた」「彼は人間の手のひらにのるほど小さかった」
 私は一笑に付すつもりだった。こんな研究が学会に受け入れられるはずがない。ところが、その論文は精緻を極めていて、文鳥の歴史から説き起こし、さらに原本の筆遣いにも言及し、「文長」は「文鳥」の書き間違いではないことを見事なまでに証明していた。
 私は反論した。彼も反撃した。この論争の激しさは、両者とも落語が創作物であることを忘るほどだったという。
SF
公開:18/02/19 06:14

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