誕生日おめでとう

　昔の日本、つまり私の祖父の時代では長生きすると還暦、古希、喜寿などとお祝いをしてくれたらしい。全く羨ましい文化だ。現在の日本では長生きすることが恥だと思われている。表向きには現在もそれらの文化はお祝いごととして実施されているが、実情はただの老人殺しだ。社会に役立たない上に税金を浪費する邪魔者を処分する行事として還暦、古希、喜寿と「お祝い」をする。
　そして今日、88歳の誕生日が来てしまった。米寿だ。60歳を過ぎてから何度か繰り返した行事が今日も執り行われる。死にたくない。こんな老いぼれでもまだ生きてやりたいことがあるのだ。どうして私が死ななければならないのか。童心に戻って誕生日を心からお祝いしたいのに。
　客間に親戚が集まった。孫が笑顔で私の目の前に大量の餅を運ぶ。
　「88歳おめでとう！さあ、お腹いっぱいお餅を食べてこれからも元気に過ごしてね！」
　私は震えながら餅に手を伸ばした。