マジックミラー

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「課長、あんなに強く言うことないのに」
 鏡の中の私はぷりぷり怒ってる。それがちょっと滑稽に思えてきた。
「自分が連絡忘れたことが一番悪い」
 そう口に出すと、なんだかすっきりした。もう一度課長に謝ろう。今度はきちんとできるはず。
 バスルームの鏡は魔法の鏡だ。語りかければすべてうまくいく。だから私は毎日の出来事や自分がほしいもの、なんでも鏡に話す。
 恋人ができたのも鏡のおかげ。カレはアパートのお隣さんで、「実家からたくさん送ってきたので」と佐藤錦をお裾分けしてくれたことをきっかけに仲良くなった。前日にさくらんぼが食べたい、と鏡に言ったばかりだったからびっくりした。カレとは映画や小説、音楽の趣味がことごとく合って、私たちはすぐに付き合い始めた。
「そろそろ冬物のブーツがほしいな」
 そう言ってバスルームの電気を消すと、魔法の鏡に一瞬カレの顔が浮かび上がったような気がした。
ホラー
公開:18/02/17 10:34
ショートショート10番勝負

uryusei( 東京 )

瓜生聖
ITmediaで記事を書いている兼業ライター

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