台詞泥棒

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巷では台詞泥棒が出没している。その泥棒は人の大事な台詞を盗むのだ。
たとえば告白場面。片方が口を開きかけると、泥棒が現れ口にする。
「好きです! 付き合ってください!」
呆然とする二人を置いて泥棒はすぐ逃げていく。場は白けるわけである。
お茶の間でも被害が出た。泥棒はドラマを見る人に忍び寄り、主人公の決め台詞を先に言ってしまうのだ。
そんな泥棒を捕まえるべく、刑事たちが散らばった。
プロポーズのありそうな高級レストランや夜景スポット。泥棒は捨て台詞も盗むので、揉め事の多い夜の駅なども張り込んだ。
そしてついに、ある刑事が犯行現場に遭遇した。会社の行事で社長が渾身の一言を言いかけたとき、泥棒が現れその台詞を盗んだのだ。
しかし、刑事が駆け寄った瞬間だった。泥棒は不敵な笑みでこう言った。
「台詞窃盗の現行犯で逮捕する!」
刑事が自分の台詞を盗まれ絶句しているその隙に、泥棒はまんまと逃げ失せた。
ミステリー・推理
公開:18/02/17 09:45

田丸雅智( 東京 )

1987年、愛媛県生まれ。東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒。2011年、『物語のルミナリエ』に「桜」が掲載され作家デビュー。12年、樹立社ショートショートコンテストで「海酒」が最優秀賞受賞。「海酒」は、ピース・又吉直樹氏主演により短編映画化され、カンヌ国際映画祭などで上映された。15年からは自らが発起人となり立ちあがった「ショートショート大賞」において審査員長を務め、また、全国各地でショートショートの書き方講座を開催するなど、新世代ショートショートの旗手として幅広く活動している。著書に代表作『海色の壜』など多数。

◆公式サイト:http://masatomotamaru.com/

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