第15話「欲がない男」

彼氏の匠が私達に焼肉をご馳走してくれた。食べ放題などではない。築地の三つ星高級店だ。
「食べて食べて」
茜と翠は大喜びで、本当にバカみたいに頼んでいる。私はムズムズして聞いた。
「悪いことしたの？」
匠は、まあ食べなよ、と言って笑う。気持ち悪くて食べられたものじゃなかったが、ワインを飲んでタガが外れた。さんざ飲み食いして、一体どんな仕掛けがあるのかと思ったら、匠が何やらチケットを取り出して見せた。アメリカの大手旅行代理店の名前が書いてある。
「実はさ、懸賞で旅行が当たったんだよ。でも準備とか大変らしいから辞退したら、別のものに変えますって」
「で、焼肉に替えてもらったの？」
「そう。4名様」
「勿体ない。行けばよかったのに。どこに旅行？」
「宇宙」
「宇宙？！」
幸せそうに肉を頬張る男に、私は呆れた。すると、チケットを眺めていた茜が言った。
「ねえこれ、来年1月から使用可って書いてある」