千歳飴

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私の生涯は幸せとは言い難いものだった。
夫は早死し、子孫もいない。近所の家族も、役所の人も、誰も私のような老いぼれを気にかけてくれる人はいない。
いつしか私の名前も、歳も忘れてしまった。
覚えているのは夫のことだけ。
私の生まれた頃から空いていた穴を埋めてくれた。あの人の隣が居心地が良かった。
こうやって縁側でのんびりと緑茶を啜って、これから先のことを話し合って。
あの人は誰よりも人間らしかった。
よく笑い、よく泣き、よく喜び、よく怒る。
私の手料理をお腹いっぱいに食べて、 考えも大胆で、でもいびきは小さくて。
季節もあの人もあっという間に変わっている。けれど私はずっとこの体。
若い頃の顔が思い出せない。家に鏡は無いしもう外で歩くこともできない。
あの人は長生きしますように、っておまじないをかけてくれた。
顔を手で覆う。顔の皺が幾重にと刻まれている。
気付けば空から小糠雨が降っていた。
その他
公開:18/02/18 04:15

腹痛

犬派です

作品に使用している画像はすべてフリー素材です。
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