第11話「夜更けの二人」

葵姉ちゃんが酔って帰ってきた。飲み会があったらしい。その上お酒を買い込んでいる。
「茜。付き合いな」
働きだしてからはお酒を覚え、家でも飲む。あたしもたまに付き合うが、こんな酔い方は初めてだ。
「茜。お母さんに電話してよ」
「すればいいじゃん」
両親の住むロンドンは昼過ぎだ。
「いやよ。酔ってるのに」
「じゃあやめとけば」
「してよ。喋ってるの聞いてるから」
あたしはいつも優しさが足りない。
「自分でしなよ、面倒くさいな」
すると、普段お母さん役をしてくれるお姉ちゃんが泣いた。まるで小さい子供みたいに、お母さんに会いたい、と訴えた。
何があったのかは聞かなかった。正直に言うと聞けなかった。黙ってチューハイを2缶空けた。
翌朝、お姉ちゃんはもういなかった。あたしと翠のお弁当と「出張なのでもう出ます。昨日はごめんね」という書置きがあった。
あたしは頭痛を感じながら、やっぱり大人だな、と思った。