花霊 - はなだま

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太陽のような顔をした花が咲いていた。
男はその花に妻の顔を重ねた。
男にとって妻はまさに太陽そのものだった。
ー もう一度君に会いたい
大きく開かれた双眸にその花を映したまま
男は絶命した。
花は男の死を悼むようにこうべを垂れて
しばらくしてボトリと地面に落ちた。
花の顔からたくさんの種が散らばった。
花は種からまた咲いてまた枯れた。
それを何回も繰り返した。
そのうちに男は土に還った。
花はその土の上で今も咲いている。

女は戦争に行った夫を待ち続けた。
どれだけ待っても夫は帰ってこなかった。
女は港で小さなカフェを始めた。
夫が帰ってきた時にすぐにわかるよう
『ともしび』という名前の。

ふと庭の方から懐かしい匂いがした。
女はゆっくりと立ち上がる。
「おかえりなさい」
船乗りがくれた種が花壇で花を咲かせていた。
太陽のような顔をした花。
女は老婆で、もう目が見えなかった。
その他
公開:18/02/15 22:00
更新:18/02/26 12:59

杉野圭志

元・松山帖句です。

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