出鱈目な棋譜

4
192

 女は将棋盤を前に事切れていた。
「ん? これは……」
「なんすか、それ」
 老刑事が拾い上げた付箋を部下が覗き込む。
「▲1二香、△4二金、▲4一玉、△2一桂打、▲4三歩、△2二銀……棋譜ですかね、これ」
「後手から始まる棋譜なんておかしいだろ。それに初手で相手の陣地に金を打つなんて出鱈目だよ、これは」
「じゃあ手がかりにはならなそうっすね」
「まあ待て。出鱈目だからこそ、ガイシャが残した手がかりかもしれんぞ。犯人に見られてもわからんように偽装したという可能性もある」
「つまり、これはダイイングメッセージの暗号だと……?」
 ははあ、なるほど、と老刑事は膝を打った。
「え、もう犯人が分かったんですか?」
「ポケベル世代ならすぐ分かるはずだ。2タッチ入力で検索してみろ。あの男、捨てた女に殺されるのが夢と言いながらこんなことをしでかすとはな」
 老刑事は肩をすくめた。
ミステリー・推理
公開:18/02/14 23:19
ショートショート10番勝負

uryusei( 東京 )

瓜生聖
ITmediaで記事を書いている兼業ライター

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容