祖父

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 押し入れから将棋盤を取り出した。付箋のついた詰将棋の本もある。古い物であるが木目が美しい盤で駒も綺麗だ。祖父がこれらを丁寧に扱っていたことが分かる。良い値段で売れそうだ。私が最後にこの駒に触ったのは何十年も前だった。当時はルールが飲み込めず、結局将棋崩しをして遊んだ。
 祖父は寡黙な人だった。知人もいない。定年してからは盤の上の駒を睨んで一日を過ごしていた。私はその表情を怖れた。得体の知れない鬼のように見えたのだ。その祖父は今は病室で眠っている。もうずっと目を覚まさない。そろそろかもしれない。
「おや……。」
 押し入れから新品同様の詰将棋の本が出てきた。子供向けである。発売日は私が生まれた年であった。親に頼まれた片付けを放り出して私は本を開いた。そして指示の通りに盤に駒を並べる。
 駒が盤を叩く。部屋にパチンと音が響く。いくつか詰将棋の答えを出した頃には夕陽が沈み、夜が訪れていた。
その他
公開:18/02/14 18:35
更新:18/02/14 18:39
ショートショート10番勝負

だんご( 石の下 )

だんごむしのだんごちゃん。まるくなって空を見つげる。
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